伊勢志摩さいこう会
― 伊勢の町屋「旧M家」の移築・保存に向けた調査および利用計画の立案―2011 年2 月28 日
伊勢神宮への旧参宮街道沿いには、この地方の民家建築として極めて貴重な史料価
値を持つ独特の町屋が現存している。旧M家は、大正期に建築された典型的な伊勢
の町屋であるが、近々取り壊される予定である。現在空き家になっている機会に、詳
細な建築的調査をして建築諸元を記録すると共に、その有効利用を考え保存および
移築の可能性を探る。同時に、町屋の価値を市民へ啓蒙し、あわせて伝統建築技術
の保存・継承について検討する。
1.活動の背景と目的
伊勢神宮の旧参宮街道沿いには、地域独特の民家建築である町屋が現存している。
これらの伊勢の町屋の形は、地域の神宮崇敬の精神風土もあり建てられ始めた江戸
時代中期から近年に至るまでその形態をほとんど変えていない。
形態的な特徴として、道路に面した二階建て建物の妻面の表情と破風と屋根勾配の形と
があり、大きく分けて三つのタイプがある。
写真1 伊勢の町屋タイプ(A) 写真2 伊勢の町屋タイプ(B) 写真3 伊勢の町屋タイプ(C)
本プロジェクトで対象とする「旧M家」はタイプBに属する建物で、かつては材木商を営
んでいたこともあってその構えは豪壮であり、建物の多くの部材・部位には最近では入
手し難い樹種の材木が使われていて、前述の「小西萬金丹」、「酒徳」に匹敵する現存
する数少ない特徴的な伊勢の町屋である。現在空き家になっているもののその保存
状態はよく、一見して伊勢の民家建築として極めて貴重な史料価値を持つ建物と推定
される。写真4 旧M家の外観 写真5 旧M家の1階内観 写真6 旧M家の2階内観
この建物は近々取り壊される予定であるが、持ち主としては可能であれば保存を前提
とした解体・移築、あるいは現在では入手不可能な部材や建具等の再利用を切望して
いる。
本計画は、このままでは失われてしまう伊勢の町屋である旧M家について、まず詳細
な建築緒元を実測調査し、その建築的詳細を記録として後世に伝えると共に、現地保
存あるいは解体・移築保存の可能性を探り、最悪の場合にも現在では入手不可能な
貴重な材料や家具等の再利用の可能性を検討することを目的とする。
同時に、このプロジェクトを機会に、伊勢市における町屋分布の現況を調査して記録
する。これらの調査結果は、地元で開催する展示会や町屋を考えるフォーラムを通じ
て、地域に情報を発信し広報することによって、市民が伊勢の町屋の価値を認識する
機会とし、その貴重な文化遺産保存への啓蒙を行う。
また、あわせてこれら町屋建築を成り立たせてきた地域の伝統建築技術が、プレハブ
的(木造軸組みのプレカット工法やツーバイフォーも含む。以下プレハブ的と表記)住
宅主流の中で廃れつつある現状を鑑みて、その継承のあり方や仕組みを考えようとす
るものである。
2.活動内容
(1)活動の概要と手順
活動概要:「旧M家」を主たる対象として以下の活動を実行した。
①「旧M家」について、詳細な建築的実測調査を実施してその建築緒元を記録し
(CAD 図面化)、合わせて常時微動測定によって建物の耐震性能の評価を試み
る。
②伊勢市域に現存する町屋を調査し、その分布を記録する(地図への落とし込
み)。
③当該建物(M邸)の現地保存あるいは移築等の可能性を費用とともに検討する。
④当該建物(M邸)が保存されると仮定し、その再活用について検討する。
⑤調査・検討結果のパネル展示会及び町屋保存に関するフォーラムを開催する(広
報)。
⑥町屋建築の保存に必須の伝統建築技術の継承について検討する(教育)。